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書評:『暗幕のゲルニカ』 原田マハ著

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 wikipediaより画像引用

 

暗幕のゲルニカ [ 原田マハ ]

価格:1,728円
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感想(2件)

 

 

 

原田マハ氏は美術キュレーター

 

 

原田マハ氏は1962年東京生まれ。森美術館設立の際の準備室で働いたのちニューヨーク近代美術館に勤務した実績のある国際的なキュレーターです。

MoMAのような世界の美術業界の中心的役割を果たす場所で実際に多くの作品にかこまれ、それをめぐる絵画ビジネスの渦中で仕事をしてきた彼女の経験は日本人としてもたいへん誇れる素晴らしいものだと思います。

その確実な専門知識をベースに、絵画や画家にまつわるエピソードやミステリーを小説化している点、日本では希少な作家さんといえるでしょう。 

 

 

ピカソの『ゲルニカ』と9.11

 

 

この小説はアメリカ同時多発テロ9.11で夫を亡くした日本人女性キュレーターが主人公です。この理不尽なテロ行為への怒りと、それを理由にアメリカ政府が起こす中東戦争への困惑、それを象徴するものとしてピカソの『ゲルニカ』を中心におき、物語がすすんでいきます。

 

9.11テロとピカソの『ゲルニカ』を結びつける発想は、決して特殊なものではありません。実際当時私も欧州の美術仲間と『ゲルニカ』がまさに9.11とその後の矛盾を現しているという話をしたことがありました。多くの人があの絵を思い浮かべたんですね。

原田マハ氏もおそらくすぐにこのインスピレーションを感じたのだと思います。

だからどうしても小説に仕立てたかったのかな、と。

 

www.museoreinasofia.es

 

『暗幕のゲルニカ』書評

 

 

私の評価は非常に低いです。

同氏の『楽園のカンヴァス』『異邦人』『太陽の棘』などはすばらしかった。

しかしこの『暗幕のゲルニカ』は読後の満足感がほとんどありませんでした。

 

以下、評価が低い点を4つ説明していきます。一部『暗幕のゲルニカ』と『楽園のカンヴァス』のネタバレを含んでいますから未読の方はご了承のうえ読み進めてください。

 

まず、時間軸がごちゃまぜになっていて、物語が非常に不明瞭な点。

原田マハ氏は画家が生きた時代と現代の2本の時間軸を使い、章ごとに交互にそれぞれの物語を描く書き方をよく用いています。

『楽園のカンヴァス』はこの手法がとても効果的に発揮されており、読者のワクワク感をつのる素敵な演出になっていました。

 

しかし、この『暗幕のゲルニカ』はひどかったです。

もちろん、ピカソが生きてパリで『ゲルニカ』を描いた時代と、現代が交互にかたられるのですが、ピカソ・パリ時代の内容を語りながらその中でまたさらに過去に遡ったり元に戻ったり、元に戻った中でまた回想が入ったりと話が飛びすぎるのです。本当にわかりにくくて、後半は何度も途中で読むのをやめようかと思う憂鬱さでした。

時間軸が動く場合も、統一性や一本筋の通った基本線があればいいのですが、そういったものはなく回想が重複したりするので、読書のリズムは完全に壊れています。

 

次に、ラストシーンがひどすぎる。国連での暗幕のシーンからどのような対応がなされるのかと期待していましたが、最後に頭が「???」で埋め尽くされた読者は多かったのではないでしょうか。

 

私は途中まで、タピスリーがバスクの美術館に飾られ、国連はレプリカ、MoMAに本物+何らかの演出、かな?と想像していました。

アメリカが引き起こしている中東戦争の不条理を国連に訴えても仕方がないわけですよね? アメリカに対してアートの力をもって訴えるというのが本筋では?

国連とアメリカ政府との関係を皮肉りたいのなら、その伏線となるものをもっと加えておくべきでしょうし。

がっかりというか、読んで損したわ、と腹がたってしまいました。

 

 

そして3つ目の残念な点。

原田氏の小説は美術についてはすばらしい専門知識と経験に基づいているのですが、それ以外は少し雑だなと思うことがあります。

今回もバスクの独立運動家たちについてはお粗末。バスク問題やカタルーニャ問題はメジャーな案件ですしピカソと結びつけやすいのかもしれません。

が、監禁されていて無傷で開放ってあまりにも都合がよすぎます。あと、キュレーター誘拐するほど彼らも短絡的ではないのですが。実際の反対派の活動をもう少し調べてもよかったのでは?

もちろん短絡的な傍流グループもあるでしょうけれど、美術館がからんでいる主流派の言動とは思えない。

 

最後に4つめ。

必ず画家や関係者の直系子孫がでてきて、最後にその血筋が判明するのはいい加減あきました。マイラもちょっと無理矢理感が強すぎる。謎の女性が出てくると、「あ、子孫だな」とすぐわかってしまいます。『楽園のカンヴァス』のように後継者であれば納得もいきますし綺麗に収まるんですが、今回は登場の場面も不自然で、信頼関係のない人質に写真でピカソ絵画の真贋確認というのもこじつけ感が強い。

 

『ゲルニカ』と911、ピカソの直系子孫、バスク独立運動、いろいろなインスピレーションが沸いてそれを小説に盛り込みたいということだったのかもしれませんが、もう少し時間をかけて丁寧に仕上げてもらわないと、読み手としてはわけがわからないなぁというところです。

 

酷評となりましたが、率直な感想です。

 

私の美術体験

 

 

幸運なことに、私は『ゲルニカ』を見たことがあります。

私が見たころはソフィア美術館にありました。

かなり大きな作品なので圧倒されたのを覚えています。

スペインではミロのかわいらしいポスターアートやガウディのサグラダファミリアの近代芸術がとても特徴的でしたが、プラド美術館のベラスケスやゴヤにとても感動しました。

ゲルニカはやっぱり見ておかないと、という義務感から足を運びましたがやはり大作といわれる所以を強くかんじる強烈な作品でしたね。

 

書評とは関係ありませんが、今年プラド美術館展が東京と神戸で開催され、3回足を運びました。20年ぶりにベラスケスの傑作に再会し堪能しました。私にとっては美術鑑賞は今も昔も大きな楽しみであります。

そのベースは20代の欧州訪問で築かれたことに間違いはなく、その幸運に感謝しています。