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書評:『サロメ』 原田マハ著 およびサロメのお話

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Wikipediaより引用

 

サロメ [ 原田 マハ ]

価格:1,512円
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感想(1件)

 

 

 

美術専門家の原田マハ氏

 

 

原田マハ氏は1962年東京生まれ。森美術館設立の際の準備室で働いたのちニューヨーク近代美術館に勤務した実績のある国際的なキュレーターです。

美術品そのものだけでなく、美術館事情にたいへん詳しい専門家ですから、小説に出てくる美術関連のエピソードや知識は興味深く信頼して読むことができます。

 

 

『サロメ』書評

 

 

この本はとにかく装丁が素敵でした。

これから読む方は、文庫本ではなくぜひともハードカバーで読んでいただきたい。

ピアズリーの漆黒の世界が非常によく映える絶妙な黄色(からし色)が使われています。

何作目か知りませんが、きっと原田マハ氏が小説家としての実績を積んだことで、このように大胆で美しい想定本の発行が可能になったのだと想像します。

現代では小説は電子書籍でも読めますが、グーテンベルグ以前は写本が基本でしたし、近代でもマラルメが発行した『大鴉』など、美しい装丁というのが本を持つ楽しみのひとつであることも事実です。

現代でもこういった装丁の美をこころみることができるのは、やはり原田マハ氏のアート・キュレーターとしてのセンスと小説家としての実績があるからでしょう。

とても美しい素敵な1冊です。

 

内容についてはピアズリーの狂気が姉からの目線でよく描かれていました。

原田さんの小説はやはり綺麗に上品に仕上げているので、オスカー・ワイルドの背徳的な妖しさはあまり深くえぐって描かれておらず、小説的な意味では少し物足りなかったです。ピアズリーやワイルドの逸話はそこそこ有名で、私も他の書物や映画で人物像を知っていたため、そういう人には史実を追っている部分が少し退屈でした。

 

 

サロメ王女の物語

 

 

この作品の題材になっているのはサロメ王女です。

紀元前、イスラエル近くに存在したヘロデ王国の王女の名前ですが、たいへん背徳的で屈折した色欲の象徴として様々な芸術作品にとりあげられてきました。

原典は聖書『マルコ』の福音書第6章のエピソードがベースとなっています。

 

ヘロデ王国の女王(サロメの母)は国王(サロメの父)の実弟と不貞をはたらき色欲に狂います。ついに実弟は女王と共謀して兄の国王を暗殺して自らが即位しました。

 

当時の宗教はユダヤ教。ちょうどイエス・キリストの信仰が広まる時代で、イエス・キリストを洗礼したとされる預言者ヨハネがこの地方で布教活動をしていました。

無精ひげの粗野な風貌、裸に獣の皮をまとい麻ひもでくくりつけただけの出で立ちで、貧しいものたちに神への信仰と正しい行いを説くヨハネ。

そんなヨハネは、不貞を働き実兄を殺して国王の座についたヘロデ王を痛烈に批判します。

王は彼を投獄しますが、自らの兄殺しの罪を認識して神やヨハネを恐れている上に、民衆の支持があるためにヨハネを処刑することができません。

ヨハネは牢獄から鉄格子窓に向かってヘロデ王批判と信仰の説法をつづけます。

 

そんなヨハネにサロメは強烈に心を惹かれます。

深窓の令嬢、ヘロデ王の王女であるサロメはたいへんな美貌の持ち主でもありました。王女を妻に娶りたい隣国の王族や、ただ恋い焦がれる兵士や従者もいたようです。神秘的な美しさを持つ一方、すべて自分の思い通りにいくと信じて疑わない残酷さもありました。

強烈な興味をもってヨハネに近づきますが、そんなサロメをヨハネは痛烈に批判します。

ヨハネの拒絶と無関心が、サロメを狂わせていきます。というよりも、母親の血を継いだ彼女の真性があらわになってきただけなのかもしれません。

 

ある時(確か満月の夜だったはず)、他国からの賓客をもてなすための宴を開くことになったヘロデ王は、サロメにその美しい踊りを所望しました。

 

「そなたの美しい踊りをみせておくれ。褒美に何でも望むものをあげよう」

 

サロメは何枚ものヴェールを一枚ずつ脱いでいく美しい踊りを披露します。

月の光を浴びて、神々しいまでに美麗な踊りのあと、処女サロメの裸体がさらされて宴はクライマックスを迎える。

ヘロデ王は大喜びで、サロメに褒美は何がよいかと尋ねます。

 

「ヨハネの首を」

 

ヘロデ王は驚き、他の物にするよう懇願しますがサロメは頑として譲らず、結局ヨハネは首を刎ねられ、銀盆に載せられた血の滴るヨハネの首がサロメのもとに届けられます。

そしてサロメはヨハネの死首にくちづけするのです。

 

 

 

 

サロメをめぐる芸術作品

 

これがサロメの基本的なお話。マタイ伝にはここまで詳しい描写はありませんが、おおよそ上記のような内容が伝えられています。

 

そこには様々な脚色や派生のエピソードも生まれています。

たとえばヘロデ王(弟)がサロメを自分のものにしようとしていたという近親相姦の逸話や、満月の光をあびて狂う兵士の描写、サロメが聖職者の死体にキスをする背徳性など、芸術家や作家の想像力をかきたてる題材といえるでしょう。

 

オスカー・ワイルドもピアズリーの神秘的かつ不気味な挿絵でサロメの物語を発表し、たいへん有名になりました。

 

私が最も好きな作品はギュスターブ・モローの絵『出現』や、『サロメ』です。パリのギュスターブ・モロー美術館に所蔵されています。耽美的な絵画がサロメの独特の雰囲気と最もマッチしていると思います。

 

他、ハンガリーのブダペストでオペラ『サロメ』を見たことがあります。

すごく太ったソプラノ歌手がサロメを演じていて、しかも本当に裸で踊ったのをみてゲンナリしました。

マチネの安い公演で、全然よくなかった。

 

あとは宝塚歌劇団のレビューでもサロメをモチーフにしたものがありましたね。

短いので1本のストーリではなく、レビューの中にでてきて、歌や踊りで表現する感じ。

ヨハネを「ヨカナーン」というヘブライ語の発音で呼んでいたのが印象的。

 

塩野七生氏の『サロメの乳母の話』は異なる視点で目から鱗、とても面白かったです。というか、さすがですよね塩野さん。筆のレベルが別格・・・。

 

 

 

オスカー・ワイルドとオーブリ・ピアズリー

 

 

ワイルドは『幸せな王子』や『サロメ』などの短編で有名ですが、当時は劇作家・戯曲家として舞台作品で大いに人気でした。

私が最も彼の作品で才能というか異質性を感じるのは「詩」です。

 

耽美的で退廃的、まさに天才だったのでしょうが、まだ時代が同性愛を容認できなかったため不幸な最期を迎えています。

 

原田マハ氏の『サロメ』ではワイルドとピアズリーが男色の関係であるように描かれていますが、事実は異なるはずです。これは小説的脚色ですね。

ピアズリーは同性愛の傾向はなかったようです。ただ、実姉マリーベルとの近親相姦は疑われていたようですが。

 

けれど本当に二つの才能が運よく同時代に出会い、これだけ完成度・相乗効果の高い作品を生み出したなぁ、と感動してしまいます。

挿絵がなければありふれた物語のリライト、物語がなければちょっと変わった装飾画、で時代に埋もれていたかもしれません。

 

『サロメ』をめぐる物語、たくさんありますが原田マハ氏の同書は美しい装丁で原作の雰囲気をたっぷりと楽しめます。すらすら読めますので、ぜひお手に取ってみてはいかがでしょうか?

 

私の美術体験

 

 

ピアズリーについては、ロンドンでいくつか作品をみた記憶があります。

最近では昨年のアルフォンス・ミュシャ展でピアズリーの版画が展示されていました。白黒画でここまでの表現力があるってすごいですよね。アラベスク風でありながらも、全く新しいひとつの個性として確立している。25歳で夭逝した人物ですが、もっと色々な作品をみてみたかった気もします。

私はピアズリー作品大好きです。

 

もう1作、原田マハ作品の書評がつづきます。